米政策の転換期：政府が「生産調整」の見直しへ

✅ はじめに：米価高騰と揺れる農政の現場

2025年春、日本全国でコメの価格が急激に上昇するという異例の事態が発生しました。

消費者からは「庶民の主食が手に入らない」との声が上がる一方で、生産現場では「増産すれば価格が暴落する」との懸念が根強く、農家は複雑な状況に置かれています。

こうした中、政府は長年続けてきた“生産調整（いわゆる減反）”の方針を大きく転換する決断を固めました。目的は、持続可能な農業と価格の安定供給の両立を実現することです。

📈 生産調整の背景と変化の必要性

「生産調整」は、1970年代にコメの過剰生産を抑制する目的で導入されました。

農家に対して生産を制限し、代わりに補助金を交付することで、米価の安定を図ってきたのです。

しかし、2018年には制度上の“減反”は廃止され、政府は表向きには生産制限を撤回しました。

ただし、現場では政府が示す**「需要見通し」**を重視した“自主的な抑制”が続き、実質的な生産調整が残っていたのが実態です。

そして現在、コメの需給バランスが崩れたことにより、過去に例を見ない価格の高騰が発生し、制度の見直しが急務となっています。

所得補償制度の導入がカギ

もしも農家が生産を拡大すれば、過剰供給による価格下落が避けられません。

こうしたジレンマを解消するため、政府は新たな仕組みとして「所得補償制度」の創設を検討しています。

この制度では、農家が生産にかかった費用と実際の収入に差が生じた場合、その差額を国が補償するというもの。

これにより、価格下落のリスクを軽減し、農家の安定経営を支える体制づくりが可能になります。

想定される仕組み：

• 収入が生産費を下回った場合の差額補填

• 一定基準を満たした農業者への直接支援

• 生産意欲をそがない柔軟な支給方式

🏛 政府の対応：関係閣僚会議が始動

政府は6月5日、「米の安定供給等実現関係閣僚会議」の初会合を首相官邸で開催しました。

会議には石破首相をはじめ、林官房長官、小泉農相、中野国土交通相らが出席し、価格安定策や農政改革の方向性について本格的な議論が始まりました。

📌 初会合の要点：

• 価格高騰の原因分析

• 短期および中長期の政策対策の検討

• 備蓄米の安定流通の確保

• 流通経路の見える化と価格の透明性向上

石破首相は会合の中で、「国民が安心して購入できる価格でコメを供給すると同時に、持続可能な農業の実現が不可欠だ」と強調しました。

農家の声と現場のリアル

全国の農家からは、「作っても赤字になるのでは意味がない」との懸念が相次いでいます。

特に中山間地や高齢化が進む地域では、わずかな価格変動が経営に大きな影響を与えるため、収入の安定性が農業継続の鍵となっています。

📦 備蓄米の流通と物流業界の協力

農水省は、備蓄米の流通を円滑にするため、物流業者との連携を強化する方針です。

中野国交相は、今後の協議で物流の課題も取り上げ、「災害時と同様に、迅速で無駄のない配送体制の構築」が求められていると述べました。

この動きは、今後の気候変動や輸入不安への備えとしても重要視されています。

🔄 中長期的な農政改革の方向性

今回の価格高騰は、一時的な異常気象や需給のズレだけでなく、農政そのものの構造的課題が背景にあるとされています。

政府はこの機会を活かし、長期的な農政改革に取り組む姿勢を明確に打ち出しました。

今後の検討項目：

• 生産調整の緩和または完全撤廃

• 所得補償とセットでの制度改革

• スマート農業の導入による効率化

• 海外輸出による販路拡大の支援

• 気候変動リスクへの適応型農業政策

スマート農業と輸出戦略

特に注目されているのは、AIやIoTを活用したスマート農業の本格導入です。

これにより、少人数での高効率な生産が可能となり、若者や新規就農者の参入も促進されると期待されています。

また、海外市場では「日本米」のブランド価値が高まっており、輸出強化による需要分散も今後の大きな柱となります。

今後のスケジュールと予算反映

政府は、これらの議論を1年程度かけてまとめ、2027年度の予算編成に反映させる方針です。

農政の大転換となるだけに、各省庁間での調整や農業団体との連携も重要となるでしょう。

📝 まとめ：主食の未来をどう守るか？

日本の食卓を支えてきたコメは、ただの農産物ではなく、文化・伝統・経済を含む「国の根幹」に関わる存在です。

その安定供給をどう実現するかは、単なる経済政策にとどまらず、国家的課題とも言えるでしょう。

今回の政策見直しは、これまでの「量の抑制」から「質と持続性の確保」へと舵を切る、大きな転換点となりそうです。